5アウェイホーム


数日後、兵藤の部屋に山さんのメンバーがやってきた。

田中と佐藤も一緒だ。

―小林も呼んだ方が良かったかな。でも、また言いふらす可能性があるからな。

ホームなのにアウェイのような気分で兵藤は落ち着かない。

山さんの男メンバー、略してヤマメンには亀井、それに竹下がいた。

山さんの女メンバー、略してヤマンバには山本、古森がいた。

竹下は聞くところによると、ヤマメンの体験中だそうだ。

今は佐藤に話を聞きながら、部屋の写真を取っている。

一方、古森は巫女の衣装に身を包み、目を閉じてベッドの上に座っている。

―恐らく、精神統一をするふりをしながら寝ているのだろう。器用なものだ。

山本はモデルのようなポーズで部屋の隅に立っている。

視線の先には、買い置きしてあるお菓子があった。

亀井は古森の横に座って相変わらず観察している。

田中も巫女衣装が好きなのだろうか。

亀井と反対側に座ってちらちらと古森を見ている。

田中が手招きしている。兵藤が近くに行くと耳打ちされた。

「なあ、巫女服って着物と同じように下着をはかないのかな」

「知らんわ」

「ごほん」 寝ているはずの古森が咳払いをしている。

「ねえ、チョコレート1つ頂いてもいいかしら」

山本が耐え切れなくなったのかお願いする。

「駄目だ」 当然のように兵藤は断る。

「甘い物には緊張をほぐす効果があるのよ」

山本は勝手に取って口へと運ぶ。

「それで、一体この後どうするんだ」

「まず、古森さんに霊がいるか見てもらって、いたら呼び出してもらうのよ」

山本は古森に流し目を送る。

「いなかったら」

「それで終わりよ」 山本は事も無げに言い放つ。

兵藤は黙っている古森を一瞥する。

「古森が何も言わないなら終わりなんじゃないのか」

「せっかちな男は嫌われるわよ。霊が今、いないからといって、いないと言う事じゃないのよ」

「意味が分からない」兵藤には理解できなかった。

「あなたの部屋が霊の通り道という可能性もあるのよ」

「そういう事か」 兵藤は山本から視線を外す。

―やばい。状況がいつもと違うせいか頭の回転が遅くなっている。

山本は古森の方に顔を向けた。

「古森さん。準備はどう」

「集中力がなかなか高まらないです。横の人が少し邪魔です」

古森は本当に迷惑そうな顔をしている。

「そう、がんばって。竹下君。写真には何か写っているかしら」

山本はさらりと流すと、竹下を見る。

「ヤニで汚れた壁だけですね。タバコ吸う時は換気扇の下で吸った方がいいですよ」

「煙で害虫を退治しているんだよ」

本題と違うことを竹下に注意されて、兵藤はつい反論した。

「じゃあ、佐藤君。あなたが霊を見かけた時の状況を話してくれるかしら」

「ええと、まずラップ音が鳴って…」佐藤は説明を始める。

「…なるほど。悪ふざけしていたら実際に霊が現れたのね」

「現れたと言っても佐藤しか見ていないんだけどな」

田中が不満そうな顔をしている。

「佐藤君の霊感は強い方なの」

「いいえ。見たのは初めてですね」

… その時、いつものように軋む音が聞こえた。

皆に緊張が走る。

古森の方に注目した。

古森は目を開く。

「どうやら、来たようね」

「見えているのか」兵藤は古森の視線の先を追うが何もいない。

「見るというのは違うわ。精神を統一して心で感じるのよ。ふと誰かの視線を感じる事とかあるでしょ。あれと似たような感じよ」

「で、どうなんだ」兵藤は少し胸の高鳴りを感じた。

「霊というのはね。死んだ時に何か伝えたい事や、やり残した事があると未練が残って成仏できずに迷うのよ。でも、肉体がないから自分では何も出来ない。だから、霊の話をしていると自分が見えていると思って、集まってくるのよ」

古森の話を聞きながら、兵藤は不安になって辺りを見回した。

住み慣れた我が家だが、いつもより灰色に感じる。

佐藤は小刻みに震えながら、所在なげに視線をあちらこちらに投げかけている。

山本は何故か満面の笑みを浮かべている。

古森は話を続けた。


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