数日後、兵藤の部屋に山さんのメンバーがやってきた。
田中と佐藤も一緒だ。
―小林も呼んだ方が良かったかな。でも、また言いふらす可能性があるからな。
ホームなのにアウェイのような気分で兵藤は落ち着かない。
山さんの男メンバー、略してヤマメンには亀井、それに竹下がいた。
山さんの女メンバー、略してヤマンバには山本、古森がいた。
竹下は聞くところによると、ヤマメンの体験中だそうだ。
今は佐藤に話を聞きながら、部屋の写真を取っている。
一方、古森は巫女の衣装に身を包み、目を閉じてベッドの上に座っている。
―恐らく、精神統一をするふりをしながら寝ているのだろう。器用なものだ。
山本はモデルのようなポーズで部屋の隅に立っている。
視線の先には、買い置きしてあるお菓子があった。
亀井は古森の横に座って相変わらず観察している。
田中も巫女衣装が好きなのだろうか。
亀井と反対側に座ってちらちらと古森を見ている。
田中が手招きしている。兵藤が近くに行くと耳打ちされた。
「なあ、巫女服って着物と同じように下着をはかないのかな」
「知らんわ」
「ごほん」 寝ているはずの古森が咳払いをしている。
「ねえ、チョコレート1つ頂いてもいいかしら」
山本が耐え切れなくなったのかお願いする。
「駄目だ」 当然のように兵藤は断る。
「甘い物には緊張をほぐす効果があるのよ」
山本は勝手に取って口へと運ぶ。
「それで、一体この後どうするんだ」
「まず、古森さんに霊がいるか見てもらって、いたら呼び出してもらうのよ」
山本は古森に流し目を送る。
「いなかったら」
「それで終わりよ」 山本は事も無げに言い放つ。
兵藤は黙っている古森を一瞥する。
「古森が何も言わないなら終わりなんじゃないのか」
「せっかちな男は嫌われるわよ。霊が今、いないからといって、いないと言う事じゃないのよ」
「意味が分からない」兵藤には理解できなかった。
「あなたの部屋が霊の通り道という可能性もあるのよ」
「そういう事か」 兵藤は山本から視線を外す。
―やばい。状況がいつもと違うせいか頭の回転が遅くなっている。
山本は古森の方に顔を向けた。
「古森さん。準備はどう」
「集中力がなかなか高まらないです。横の人が少し邪魔です」
古森は本当に迷惑そうな顔をしている。
「そう、がんばって。竹下君。写真には何か写っているかしら」
山本はさらりと流すと、竹下を見る。
「ヤニで汚れた壁だけですね。タバコ吸う時は換気扇の下で吸った方がいいですよ」
「煙で害虫を退治しているんだよ」
本題と違うことを竹下に注意されて、兵藤はつい反論した。
「じゃあ、佐藤君。あなたが霊を見かけた時の状況を話してくれるかしら」
「ええと、まずラップ音が鳴って…」佐藤は説明を始める。
「…なるほど。悪ふざけしていたら実際に霊が現れたのね」
「現れたと言っても佐藤しか見ていないんだけどな」
田中が不満そうな顔をしている。
「佐藤君の霊感は強い方なの」
「いいえ。見たのは初めてですね」
… その時、いつものように軋む音が聞こえた。
皆に緊張が走る。
古森の方に注目した。
古森は目を開く。
「どうやら、来たようね」
「見えているのか」兵藤は古森の視線の先を追うが何もいない。
「見るというのは違うわ。精神を統一して心で感じるのよ。ふと誰かの視線を感じる事とかあるでしょ。あれと似たような感じよ」
「で、どうなんだ」兵藤は少し胸の高鳴りを感じた。
「霊というのはね。死んだ時に何か伝えたい事や、やり残した事があると未練が残って成仏できずに迷うのよ。でも、肉体がないから自分では何も出来ない。だから、霊の話をしていると自分が見えていると思って、集まってくるのよ」
古森の話を聞きながら、兵藤は不安になって辺りを見回した。
住み慣れた我が家だが、いつもより灰色に感じる。
佐藤は小刻みに震えながら、所在なげに視線をあちらこちらに投げかけている。
山本は何故か満面の笑みを浮かべている。
古森は話を続けた。